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作品を作るにあたって「狭い視野で物事を捉えたくない」と秦 基博は言う。「常にリアリティーを持って描きたいし、ポップスとしてきちんとリスナーに届けたい」と話す。彼のそんな想いから誕生したのが、堤 幸彦監督による映画『天空の蜂』(原作・東野圭吾)の主題歌となったニュー・シングル『Q & A』だ。アグレッシブでアッパーな曲調と、突き刺さってくるような歌詞はリアルな息吹をしっかりと伝えてくれている。3作連続で映画主題歌を担当することになった秦に楽曲について話を聞いた。
Photo:杉田 真 Text:大畑幸子

──新曲『Q & A』ですが、映画『天空の蜂』を見てインスパイアされたそうですね?



「映画を見せていただいて、すごく感じ入るところがありました。社会性のある人間ドラマということはもちろんなのですが、映像の迫力、スピード感、スケールの大きさをものすごく感じたんです。だからこそ、そういう部分とマッチングするような楽曲がいいなと。そこで自分の中に鳴っていたメロディーをさらに具現化して、サビを考えてサウンドを作っていったんですよ。前作(『水彩の月』/2015年6月)、前々作(『ひまわりの約束』/2014年8月)はバラードで落ち着いた曲調が続いたので、僕としては次の作品はアッパーでアグレッシブな曲調のシングルを出したいなと、実は虎視眈々と思っていた(笑)。それも縁とタイミングなんでしょうけど、『天空の蜂』が持っているシリアスさとか、 ちょっとヒリっとした感じとかが、僕が描いていたサウンドと見事に合致したんですよね」

──バンドサウンドで作り上げていますが、中でも秦さんのアコギが重要な役割を占めていますね?

「アレンジも自分でやっているんですけど、アコギのバッキングや間奏の部分とかは重要なポジションですね。それが活かされたのは、参加してくださったミュージシャンの皆さんのおかげでもあります。僕がデモテープを作った時点で、今回のミュージシャンの人達全員が浮かんでいましたから」

──1曲の中に緩急を入れたアレンジを施してますよね。歌詞のフレーズともリンクする部分があって、だからこそよりこの曲に惹きつけられました。



「言葉数も多いし、言葉のスピード感が大事な曲。BPMはそんなに速くないけど、やはり緩急は必要だなと思って。行き切らないといけない曲ではあるんですけど、どこでその楽曲をクールダウンさせて、またアップさせるかをすごく気にしました。だから、トリッキーさやギミックは入っているんだけど、リズムとしてはずっと変わらないから、その中で例えば、Aメロとサビの差をどうつけていくかとか、そういった変化は色々と考えたんですよ」

──詞曲共にこういったヒリヒリとした楽曲って、シングルで切るのは初めてじゃないですか? それに歌詞の部分でも新しさを感じますし。

「特に言葉の選び方に関して言えば、新しさはあるかもしれないです。確かに、最近の作品の中にこういう温度感のものはなかったので。歌詞を書いていて僕の中で1つポイントだったのは、シリアスでグッと入り込みすぎないものにしたいってことでした。というのは、映画自体は重い社会性のあるものだったりするんですけど、そういう部分は映像の中でしっかりと表現されているから、僕が作る主題歌にはあえて必要ないんじゃないかなと思ったんですね。聴いている人を引き込むだけじゃなくて、音楽として楽しんでもらえるようなサウンドであったり、詞の世界観がいいなと思って。『Q & A』という記号化された言葉をタイトルにしたのも、そういう理由からなんですよ。日本語の重い響きをタイトルにしたら重厚感は出たと思うけど、それは自分が思っているこの曲のイメージとは違っていたので。例えば、歌詞の中に“ステレオで天使と悪魔”って出てくるんですけど、そのフレーズのようにどこかに軽快さというか、そういう言葉の響きみたいなものやニュアンスにすごく気をつけながら作ったんです」

──詞を読んだ時に表裏一体とか愛憎とか、そういった言葉が浮かびました。質問と答えは決してイコールではないわけですから、そういう意味でも歌詞の内容を象徴するいいタイトルですよね。



「『Q & A』というタイトルが出てきたのも、映画からのインスピレーションでした。映画の中に出てくる2人の技術者がそれぞれ似たような環境に置かれてるんだけど、あることで考え方が全く違ってくるんですね。でも、もしかするとどちら側の立場になってもおかしくなかったというか、僕にはそういうふうに2人が見えた。悪に染まっていくのか…いや、悪って言うとあまりにも簡単ですけど、どうやって人がそんなふうになっていくのかとか、また逆に人を守るために立ち上がれるのかなど、そこってホントに紙一重な気がしたんです。でも、歌詞の冒頭にあるように“傷つけるため それとも守るため この手はあるの?”って問われたら、やっぱり“守るためだ”って誰もが答えると思うし、それが大前提にあると思うんです。でも、映画ではそうはいかない展開があって…。実際の世界だって、そんな場面は少なからずあると思いますしね。二者択一、表裏一体の状況って自分の意志とは裏腹に、どうなるのか結果分からなかったりするでしょ? そういう意味では“Q & A”の“A”…答えはもう出ていて、“この手は守るためになきゃいけない”って思っていたとしても、“人間はそうはならないことだってある”ということをこの歌ではずっと歌っている。そして最後の歌詞は“迷うことなく 人は 手を差し出せるか?”って“Q”、つまり問いで終わるんですよね。そこが今までの楽曲との大きな違いです。これまではだいたい何かしらの答えを歌ってきていたと思うけど、今回は違う。答えは出ているけど、それでもそうならない矛盾が存在するんだっていう。そういうことを映画から強く感じたんです」

※続きは月刊Songs9月号をご覧ください。

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