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記念すべき20作目『STROLL AND ROLL』は、歴代ベーシストを中心に5人のベーシストが参加した異色の作品になった。26年の歴史を感じさせると同時に、表情豊かな演奏と今まで以上に多彩な楽曲に新たなthe pillows(以下、ピロウズ)が描かれている。それは山中さわおの新境地を反映しているようだ。バンドの成熟とソングライター/シンガーとしての充実を、彼は噛みしめているのかもしれない。山中に聞いた。
Photo:秋倉康介 Text:今井智子

──今回は5人のベーシストが参加しているのがポイントだと思うんですけど、歴代ベーシストの参加には、ストーリーがありそうですね。



「ストーリーは(初代ベーシストの)上田健司以外ないです。去年、上田さんの50歳バースデーライブがあったんです。彼が関わった著明なアーティストがみんな参加して2日間のライブが行なわれて、ピロウズも参加したんですね、もちろん彼のベースで。後日マネージャーの方から、“これぐらいのギャラをお支払いしたいんですけど”って連絡がきたので、誕生日にライブをやって誕生日プレゼントのようなものだから、そんな無粋なことは言いませんて返事したら、上田さんが“それなら体で返します”と(笑)。じゃあ頼もうかってことになって、24年振りにレコーディングして、タダでこき使ってやりましたよ(笑)」

──2人目は鹿島達也さん。彼からサポート・ベーシストになるんですね。

「鹿島さんはメンバーになってくれとお願いしたんですよ。でも、なってもらえなかった。6年いたんです。ピロウズの黄金期といわれる時期は、ずっと鹿島さんが弾いてたんです。『ストレンジ カメレオン』(1996年6月リリースのシングル)、『TRIP DANCER』(1996年11月のシングル)、『ハイブリッド レインボウ』(1997年11月リリースのシングル)、もう全部ですからね。まぁ、良い時代を知ってくれてるのかな、鹿島さんは。バンドがブレイクしてきたぞっていう、苦労から花が咲くかというぐらいの。上田さんは種を蒔いたけど、全く花が咲く気配がないままやめてったので」

──そして、現在のサポート・ベーシストである有江嘉典さん、髭の宮川トモユキさん、THE PREDATORSを一緒にやっているGLAYのJIROさんと、世代の広さもこの作品を色付けているかと思います。

「そうですねぇ。宮川とかは仲いいので、飲んでてお前バカだなーみたいにしてても、スタジオではそうじゃない。(佐藤)シンイチロウにしても、ちゃんと緊張感を持っている様子が良かったのかな。恥をかきたくないって気持ちもあっただろうし、それが良かった。鹿島さんや上田さんに対しても、あったと思いますよ」

──これだけ個性的な5人の方が入るということで、曲とベースの組み合わせはどういうふうに?

「それも迷わなかったです。でもメンバーに伝えるのにメールじゃ無理だなと思って、ちょうどTHE PREDATORSが始まる頃で、しばらくメンバーと会わないというのが分かってたので19年振りに3人で飲みに行ったんですよ。大人数では飲んでますけど、マネージャーも入れず3人だけというのは19年振り。『ストレンジ カメレオン』をレコード会社に反対されたけどシングルで出そうという会議、あれ以来。でも結局、確認で終わったかな。“この曲は鹿島さんかな”“そうだね”“これはJIROくんでいこうと思う”“いいんじゃない”みたいな。『Subtropical Fantasy』は、なぜか真鍋(吉明)が“これは宮川くんでいきたい”っていうから、あっさり決まって。サクサクと。でも結果そうだっただけで、もし“イヤ、これは”と言われた時に、顔を見て話さないとダメだと思ったので」

──個性的な5人とのレコーディングはどうだったんでしょう?

「バンドマンと、スタジオ・ミュージシャン経験がある人は違うと思いましたね。JIROくんと宮川くんは、前もってこっちが渡したテープに、しっかり考えてきた感じなんですよ。バンドの一員のように作ってきたと思います。他の3人は、手ぶらで来て、どうしたらいい? みたいな。たぶんサポートの経験値の違いでしょうね、いい悪いじゃなくて」

──曲それぞれに、バンド感が出ているように感じました。



「たぶん前作までは、サポート・ミュージシャンなんですよ。僕の頭にある音を表現する。今回は、ゲスト・ミュージシャンとして参加してくださいということだったので、僕の頭に勝手に想像してしまってるものと、大きく違うものが出てきても、受け止めると決めてたので。そうじゃないと意味がないというか。なので、JIROくんの『カッコーの巣の下で』とか最初ベースレスで3人でも録ってたので、3人とも相当びっくりしたんですよ。この曲にこのベースが乗るんだって最初はちょっと驚いて、家で聴いたら、めちゃめちゃ面白いベースだと思って。やっぱりピロウズはギターが主役のバンドなんだけれども、主役のギターとケンカしないで、主役がもう1人いるような感じになってた。1番2番で細かく場面が違う演奏になっていたし。本当に頼んで良かったと思いましたよ」

※続きは月刊Songs2016年4月号をご覧ください。

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