森山直太朗 *撮り下ろし5ページ |
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──15周年を記念したベスト盤『大傑作撰』がリリースされます。直太朗さんにとってはどんな位置付けの作品なんですか?
「この言い方が適切かどうか分からないけど、近いなと思うのは“清算”みたいなことかなと。PCのフォルダを整理するというか…。そういう時じゃないと、なかなか取りかかれない作業も出てきたりするんですよ。『虹』を再録したのもそうだし(『花盤』収録の『虹(2016ver.)』)、CD未収録だった『僕らは死んでゆくのだけれど』をCD化したり(『土盤』収録)。オリジナルアルバムはその時に一番旬なもの達がラインナップされているけど、そのサイクルに上手く乗らなかった曲もありますからね」
──初回盤は“花盤”“土盤”の2枚組ですね。
「1枚目は“花盤”と称しているように、人目に付いたであろう曲達、僕達の印象としてマスに向かって歌った曲達ですよね。2枚目“土盤”は自分達の根っこの部分をつかさどっている曲ということかな。あとアップデートされている曲もあるんですよ。“土盤”に入っている『君は五番目の季節』のコーラスは“めくりめく”って歌ってるんだけど、本当は“めくるめく”のはずだったんです。それを今回のベスト盤をキッカケに修正することにして。それは“過去ソングあるある”というか“こうしておけば良かったな”と思うことはたくさんあるんですけどね。そう考えるとベストというのは“清算とアップデート”かも。未来に向かうスメル(匂い)がないと、出す意味がないですから」
──これまでの作品を改めて振り返る機会でもあったと思うのですが、過去の楽曲を聴いて何か思うことはありますか?
「ある時期の曲に関しては、なかなかの恥ずかしさがありますよ。諦めましたけどね、それは。以前は“あの時期はどうしても肯定できない”って言い方をしていたと思うんだけど、別の人が歌ってると思うことにしました(笑)。位相が違うというか、違うステージで闘ってる感じですかね」
──ただ、直太朗さんの場合は、デビュー当初から音楽的なスタイルをしっかり持っていたという印象もあるんですよね。
「あ、そうですか。個人的な実感としては、僕ほど変化した人っていないんじゃないか? という感じなんですけど…。それ以前にデビューした頃はスタイルというものがなかったと思うし」
──試行錯誤しながら活動してきた?
「うーん…。『さくら(独唱)』もそうですけど、たくさんの人と繋いでくれた曲があって、そこから人前でワーッとやることが多くなって。ずっとミニマムなところでやってきたから、いきなり人前に出た時に“どうしよう!? 大丈夫かな!?”という心配があったんです。その結果、やみくもにウエイトトレーニングしたというか、筋肉質な表現になっていった気がしていて」
──精神的な話ですよね、それは。必要以上に力を入れて、強く見せていたというか。
「もうちょっと掘り下げて話すと、将来的なビジョンもなかったんです。“どうにかなるだろう”という楽観だけだったというか。唯一あったのが、自分の親とか周りの先輩を見ていたのもあって、“これくらいの年齢になるまでやっていたいな”ということで。つまり“期間”とか“長さ”ですよね。そう考えた時に、筋肉質な表現ではもたなくなるだろうなと思って。(メジャー)デビュー作の『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』を聴くと、いい意味で弛緩しているというか、マイペースにやっていたなって感じるんですよ。ところが少しずつ関わる人が増えて、目に見える景色が変わっていく中で、知らず知らずのうちに圧力がかかって。そこに共感してくれた方もいらっしゃったと思うんですけど、今は元に戻っているような感覚なんだと思います」