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ソロとしては15枚目となる河村隆一のアルバム『Colors of time』がリリースされた。来年はソロ活動20周年。その“本編”に向けた“序章”でもあるというこの作品には、最初の1音から目の前の景色を変えてしまうような音の説得力と、削ぎ落とされた言葉の深みに圧倒されるような楽曲が顔を揃えている。ボーカリストとしてどのように歌と向き合い、ソングライターとしてどんな思いを楽曲に込めたのか。興味深い話をうかがうことができた。
Photo:竹中圭樹(D-CORD) Text:山田邦子

──前作『Magic Hour』から約1年。アルバム『Colors of time』の制作過程はいかがでしたか?



「実はTourbillon(河村、INORAN、葉山拓亮の3人によるユニット)のアルバムも同時に作っていたので、1か月間で21曲完パケました(笑)。コーラスも僕が重ねているんですけど、ソロ・アルバムは3日、Tourbillonは4日間の稼働。詞も、その場で書くんですよ。書きたいことは決めておくんだけど、朝スタジオに行って12時半くらいからバーッと書いて、3時ぐらいから歌入れして4曲ぐらい録って、8時半ぐらいに“じゃあ!”って帰る。直しがあれば翌日ちょっとやるとか、そんな感じでしたね」

──さらっとおっしゃいましたけど、超人的な仕事量ですね(笑)。

「(笑)。経験がないとできないというのもあるけど、逆に、経験をしているのでそうせざるを得ないところもあるんですよね。というのも、言葉を伝えるとか、ストーリーを伝えること──そもそも言葉というのは、小説でも映画でも歌詞でもそうですけど、作者の意図とは違うものを連想させたりもするじゃないですか。これはよく話題にするんですが、ユーミンさん(松任谷由実)が自閉症の女の子に向けて歌った曲があるそうなんですね。でもそれをラジオで聴いたOLさんは、“失恋した私のために歌ってくれてる曲だ”と感じたそうなんです。いい意味での誤解が、共感という形で言葉をほどいていく。僕はそう思うんです」

──端的かつ素敵な表現ですね。

「だけど歌い手はやっぱり上手くありたいと思っているし、レコーディングとなると当然見栄とかも出てきて、“もっとこう歌ったらビックリするんじゃないか”“すごいと思われるんじゃないか”となるわけです。“じゃあここは何拍伸ばしてやろう”とか、“ここはこんな声で歌ったら、泣いてるように聴こえるかも”とか、キリがないほど緻密に組み立ててしまう。そうすると、一番最初に“言葉”が来なくなってしまうんですよね。聴いてる人がまず“へぇ、このボーカリストはサビでこんな声を出すのか”って思ってしまうのは、違うんじゃないかと。ストレートに歌っても、聴いた人が各々の経験と重ねてその輪を広げてくれるのに、わざわざ難解にしてどうするんだっていうのがあって。だから、歌える人ほど一発録りをしたほうがいいと思ってるんです」

──だからそういうスケジュールになるわけですね。

「はい。そうすると、当然自分の能力の限界、等身大までしかどんなに頑張っても出ないじゃないですか。もっと正確に緻密にも作れるけど、作り壊したものは熱量が少ない気がするんですよね」

──そうして完成したのが、今回の『Colors of time』でもあるわけですね。



「裏テーマというわけではないんですが、この作品の歌詞にはずっと“雨”が出てくるんです。その雨を、色で感じたいなと思ったんですよね。優しい雨の色、恋をしてる雨の色など、いろんな雨や水の色がある。表題曲の『Colors of time』は2年ぐらい前に書いたものなんですが、この言葉がすごく全体のムードを表しているなと思い、アルバムのタイトルにしたんです」

──前作の『Magic Hour』も、独特の色彩を持つ時間帯を表現した言葉でしたね。

「はい。景色の中にはいろんな色がありますから、そこから想像を膨らませて書いていくことは多いです」

──今回、サウンド面にはどのようなイメージをもって臨まれたのでしょうか?

「今回は、リズム隊をロックにしたかったんです。(デヴィッド・)ボウイがやったドラムンベースみたいに、ギターやピアノは美しく、時にはジャズっぽかったりもするけど、リズムだけ少しロックにしたら面白いかなと思って作っていきました。レコーディング・エンジニアは今回も杉山(勇司)さんなんですが、最初にその方向性の話をし、実際に生音で録られているトラックがいくつかあったので、ドラムにディレイをかけたり、ピッチシフターでスネアの音を変えてダブルで出したり、まさにボウイやジャパンが昔やっていたような音のイメージでいろいろとシミュレーションしていきました」

※続きは月刊Songs2016年11月号をご覧ください。

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