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芥川賞作家・藤沢 周の小説『武曲』を『私の男』の熊切和嘉監督が映画化。熊切監督作『夏の終り』に出演した綾野 剛が主演を務め、とある事件が原因で剣道のコーチを辞め、生きる気力を失った男・矢田部研吾を演じている。また、ラップに夢中で、本人も知らない恐るべき剣の才能を持つ少年・羽田 融を自身も剣道初段の腕を持ち、昨年はドラマ『仰げば尊し』で注目された村上虹郎が演じている。初共演となった2人に、今作への思いやそれぞれの役のこと、また音楽についてもお話をうかがいました。
Photo:竹中圭樹(D-CORD) Text:奥村百恵

──現代劇ですが、命をかけた武士のようなお2人の決闘シーンにしびれました。お2人はどんな思いでこの作品に挑まれたのでしょうか?



綾野 剛(以下、綾野)「熊切さんとは『夏の終り』で初めてご一緒したのですが、現場が終わってからいくつか心残りがありました。もちろん当時は自分がやれることを模索しながら出し切ってはいたのですが、それでもポッカリと空いてしまった何かがありました。それ以降、熊切さんにお会いすると必ず“また一緒にやろうね”とおっしゃってくださったので、次にご一緒するからにはその時の穴を埋めなければいけないと強く思っていました。そして、この作品に参加することになり、一番最初に羽田 融の役で思い浮かんだのが虹郎でした。僕だけではなく、監督やプロデューサーも満場一致。それですぐ虹郎に連絡して“『武曲』という小説を読んでみて”と伝えると、彼はすぐに“買ったので読んでみます”と連絡をくれたんです」



村上虹郎(以下、村上)「僕は買ってすぐに読んだんですけど、綾野さんはまだ読んでなかったそうで、正直“何で僕に読んでと言ったのかな?”と思いました(笑)。でも、そうやって声をかけていただいたのは嬉しかったですし、原作を読んでとても興奮しました」

綾野「だいたいのあらすじを読んで、融役は絶対に虹郎が合うという自信があったので、僕は映画化することはあえて伝えませんでした。漫画は洋服も髪型も表情も全て描かれていて、イメージもしっかりとでき上がっていることもあり必ず読みますが、小説の場合は風貌や雰囲気などが活字で書かれているので読む人それぞれイメージがバラバラなこともあり、必ず監督に“原作を読んだほうがいいですか?”と聞くようにしているんです。今回も熊切さんに確認したところ、“綾野くんは脚本だけで大丈夫です”とおっしゃったので読みませんでした。それで、虹郎に小説の感想を聞いたら“融という役を絶対にやりたいです”と非常に熱量を感じるトーンで言ってくれたので、撮影前から確信めいたものを感じたのを覚えています」

──村上さんは念願の熊切組への参加だったそうですね。



村上「熊切監督の作品は全部観ていましたし、いつかご一緒したいと思っていました。実は今作に入る前に監督とお会いしたことがあるんです。監督の『私の男』という作品のコメントを依頼していただいたことがあったのですが、ちょうどその時期に渋谷のBunkamuraル・シネマという映画館にジャ・ジャンクー(中国の映画監督)の映画を観に行ったら監督らしき人を見つけたんです。でも、もし人違いだったら恥ずかしいなと思って携帯で監督の画像を検索したら、親父(俳優の村上 淳)とのツーショット写真が出てきたので“間違いない! 熊切監督だ”と(笑)。それで“はじめまして”とご挨拶させていただきました。それから数年経ってようやく監督とご一緒することがきたので、夢がひとつ叶いました」

綾野「監督と出会うタイミングも大事ですし、周りの大人達に育てていただく時期もすごく重要だと思うんです。というのも、限りなく子どもに近い僕と真剣に向き合ってくれて成長させてくれた経験を持っているからです。今回、虹郎に対して今まで抱いたことのなかった感情が新しく芽生えたのですが、それは“村上虹郎をホンモノにしたい”という感情。彼は若くしてデビューしていますが、その分、感覚でやれてしまう時期も長かったと思うんです。それを本来持っている実力に変えていく作業こそが大事で、虹郎には本質的な部分で芝居をしてほしいと思いました。賞をいただくことや興行収入を気にすることも大事ですが、それよりももっと大切なことをこの作品で彼と芝居をしたことによって、僕自身も見つけることができたように思います」


※続きは月刊Songs2017年6月号をご覧ください。

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