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2014年本屋大賞にランクインした「ランチのアッコちゃん」を始め、あらゆる世代の女性から熱い支持を受ける作家・柚木麻子の恋愛小説「伊藤くん A to E」が豪華キャストで映画化された。“伊藤くん”という1人の男性と彼に振り回されるAからEまでの5人の女性の物語を描いた本作で、容姿端麗だが自意識過剰で無神経な男・伊藤誠二郎を岡田将生、落ち目の脚本家でA~Dの恋愛相談を利用しながらドラマの脚本を書き始めるE=矢崎莉桜を木村文乃が演じている。初共演となった2人に、今作の撮影秘話や演じた役について、また音楽の話なども語ってもらった。
Photo:竹中圭樹(D-CORD) Text:奥村百恵

──お2人は初共演ということですが、現場で印象に残ったことがあれば教えていただけますか?



岡田将生(以下、岡田)「ドラマ版がついこの間まで放送されていましたが、ドラマ版の撮影後に僕はクランクインだったので、僕以外は皆さんキャラクターがしっかりとでき上がった状態でした。驚いたのは、廣木隆一監督が“伊藤と莉桜が姉弟のように見えるように、伊藤は莉桜に甘えつつ、さらに彼女のことを観察しているような感じで演じてみて”とおっしゃったこと。僕の中でお姉ちゃんと弟みたいな関係は全くイメージしていなかったので、監督の言葉に“なるほど”と思い一段と撮影が楽しくなりました。ただ、莉桜の根底にあるものって何となく怖いという印象もあったせいか、木村さんが莉桜を演じている時に目の奥が笑ってなくて…(笑)」



木村文乃(以下、木村)「あははは! 私は想像以上に岡田さんが演じた伊藤くんが気持ち悪くて衝撃でした(笑)。一番最初にご一緒したのがドラマ版のラストで、莉桜がドアを閉めようとすると伊藤くんがガッと無理やり入ってくるシーンだったんですけど、岡田さんが結構攻めたお芝居をされていて。それまで繊細なイメージを持っていたのですごく驚きました。伊藤くんって何を考えてるか分からないところがありますし、こちらが想像もつかないようなお芝居を岡田さんがされていたので、現場でも伊藤くんのシーンではよく悲鳴が上がっていました(笑)」

岡田「そうなんですよ。カットがかかるたびに毎回“気持ち悪い〜”と女性陣に言われて、精神的にツラかったです(苦笑)。でも、きっとそれで正解なんだと褒め言葉と受け止めるように切り替えました。僕自身、伊藤は全く共感できないキャラクターですけど(笑)、究極に純粋な人なんだと、演じていくうちに思えるようになっていって。“そうか、この人は子どもなのか!”と。それも外国人の子どもだと考えたらどんどんチャーミングに思えたので、撮影後半には伊藤のことを好きになっていました」

──木村さんは莉桜を演じていく中でどんなことを感じましたか?

木村「廣木さんは“こういうことを描きたい”という気持ちの流れをしっかりイメージされていると感じたので、どう演じたらそこに近づけるかを大事に演じました。具体的な演出というよりは“そっちに動いて”とか“それはイヤだな。あっちに動いて”など廣木さんの言葉ひとつひとつに“こういう気持ちで動いてほしい”という思いがあるような気がして、それを汲み取って演じるようにしたんです。廣木さんとの“暗黙のコンタクト”のようなものを今回の撮影で強く感じました」

──莉桜が終盤でぐちゃぐちゃに泣いてるシーンが印象に残りました。



木村「中村倫也さん演じるクズケンとのシーンですよね。実は“泣く”とは台本に書いてなかったんですけど、あのシーンは莉桜の気持ちと自分のことがリンクしてしまったんです。味方なんかいなくてずっと1人で戦ってきて、信じた人間なんていつか裏切ると思っている莉桜が、クズケンから莉桜の元恋人の田中 圭さん演じる田村さんが“莉桜を信じて待っていてくれてる”と告げられるところで、私の生き方とちょっと似てると感じたんです。それまでは莉桜と私の共通点はほとんどないと思いながら演じていたんですけど、莉桜が田村さんと一緒に作ってきたドラマの歴史を思ったら、気持ちが込み上げてきて泣けてしまって…。そんな私を廣木さんがニヤニヤしながら見ていました。しかも長回ししながら(笑)」

岡田「そういうシーンは廣木さん、なかなかカットをかけないですよね(笑)。僕は池田エライザさん演じるC=相田聡子に電話でボロクソに言われるシーンがあるんですけど、そこも長かったです…“カットかからないな〜”って心の中でずっと思ってました(笑)」

木村「あのシーンの伊藤くんは、それまで見せなかったような複雑な表情を見せますよね。ずっとひょうひょうとしていた伊藤くんが、あそこで初めて人間らしい一面を見せる。それまではただのモンスターだった伊藤くんが、“あれ? やっぱり普通の人間なのかもしれない”と思えたというか。あのシーン、すごく好きです」




※続きは月刊Songs2018年1月号をご覧ください。

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