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2016年に第13回本屋大賞を受賞した小説『羊と鋼の森』が待望の映画化。ピアノの1音に森の匂いを感じ、調律師の世界に魅せられていく新米調律師の外村直樹を演じるのは、昨年『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』や『斉木楠雄のΨ難』などの話題作に主演し、幅広い年齢層から絶大な人気を誇る山﨑賢人。調律師という役を通して感じたことや、役への思いなどを語ってくれた。
Photo:松井伴実 Text:奥村百恵

──映画『四月は君の嘘』ではピアニストの役でしたが、今回は調律師という普段あまり馴染みのない職業に就く役でした。調律師を演じてみていかがでしたか?



「調律師という仕事があること自体知らない方も多いかもしれませんが、僕自身も今回外村という役を演じさせていただいたおかげで、初めてこの職業の奥深さを知りました。ピアノの持ち主としっかりと信頼関係を築きながら、コツコツと仕事を全うする姿がカッコいいなと思いましたし、調律を終えたあとはピアニストをただ見守るという、縁の下の力持ちのようなところもすごく素敵だなと感じました」

──調律師という仕事の内容だけではなく、今作ではピアノの構造にも触れていて興味深かったです。



「僕も羊の毛で作られたハンマーと鋼の弦がピアノの音を鳴らしていることは知らなかったので、驚きました。それまでは鍵盤を押したら単純に音が鳴るものだと思っていましたけど、詳しい構造を知ると、複雑にパーツが動いてピアノの音を生み出していることが分かります。構造だけじゃなく、木や羊の毛といった自然界にあるもので作られているところもいいなと思いました」

──調律師という仕事に実直に向き合う青年の外村くんを演じるにあたり、どんなことを意識しましたか?

「まず“ピアノが好き”という気持ちを意識しながら演じました。それから、北海道のトムラウシ集落という山の中で育った彼の背景も大事な要素になっているので、そこもかなり意識するように心掛けました。というのも、トムラウシ集落がある北海道の美瑛町で3日間ほど調律合宿をさせていただいたんですけど、とても静かな場所だったので、木が揺れる音とか普段あまり気付かないような音が自然と耳に入ってきたんです。そういう場所で育ったことが外村の強みでもあると感じたので、都会の雑踏の中では気付けないような繊細な音に耳を傾ける感覚を大事に演じるようにしていました」

──確かに外村くんがトムラウシ集落で育ったことは、とても重要な要素だったんだと今作を拝見して改めて思いました。

「きっと何もないトムラウシから出ることが、外村にとっての世界と繋がれる方法であって、またトムラウシで育ったこと自体がコンプレックスでもあったと思うんです。ところが、実はトムラウシで育ったことこそが彼にとっての最大の武器であると、物語が進むうちにだんだん分かってくるので、そこはとても重要だと思いますし面白い部分でもありますよね」



──『orange -オレンジ-』でもご一緒された橋本光二郎監督からは、役作りにおいて何かリクエストはありましたか?

「“普段よりも自然の音に敏感に過ごしてほしい”という指示をいただいたので、例えば道端で気になった木の前で立ち止まって耳を澄ましたり、木の匂いをかいでみたりしました。すると木がゆっくり揺れる音がクリアに聞こえてきて、わずかな匂いや香りにも気付くことができたんです。こういう感覚は、外村を演じる上でとても大事なことなんだなと思いました」

──撮影の約3か月前から東京の調律師学校でピアノの構造や調律の手順、道具の使い方を学ばれたそうですね。

「調律師に関する色んなことを教えていただきました。ピアノのパーツをはずしていく手順や、ピアノの音階を作っていく手順は覚えればそれなりにできるんですけど、音を正確に合わせるのはすごく難しかったです。ハンマーの動かし方が少しでもズレると音が高くなりすぎてしまいますし、正確な音を合わせるのに数値で計って合わせることができないので、かなり苦戦する羽目に…(苦笑)。毎回惜しいところまではいくんですけど、なかなかピッタリと合わせることができなかったので、調律師という仕事の難しさを痛感しました」


※続きは月刊Songs2018年6月号をご覧ください。

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