秦 基博 *撮り下ろし5ページ |
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──21枚目のシングルは両A面シングルですが、まず『70億のピース』からうかがいます。この曲は、“平和”について歌ったミディアム・バラードですね。
「自分は今、何を歌いたいのか? どういうことを表現したいのか? を考えていた中で、最近はいくつも選挙があったり、熊本や大分で地震があったり、社会的にも色々な事件が起きたり、そういうニュースに触れるうち“平和”っていう言葉が自然に浮かんできたんです。でも、かなり大きなテーマだから最初は大仰な感じもしたけど、それを自分の言葉で、自分の表現で曲にしたいと思ったのが、この曲の始まりですね。歌詞ができる前からこの曲は歌詞で聴かせたいと思っていたので、シンプルに音数を少なくして意識が全部歌にいくような音作りを目指しました」
──今言われたように“平和”という大きなテーマであるけれど、それを日常の断片を切り取りながら、秦さんらしいリアルな言葉で綴っていますね。
「ええ。日々の生活の中でニュースを見ていて、その出来事や物事によってはそれが自分にとって遠くのことに感じたり、本当に自分のことのように感じたりすることってあるじゃないですか。例えば電車を待っている時だったり、道を歩いている時、頭に浮かんでは気持ちの中で行ったり来たりすることって普通に日常にあることだと思うんですよ。僕自身もそういうことがありますから、そういう自分の有り様がこの曲の根っこになっていると思いますね。だから、本当に手の届く範囲のことしか言えないんですけど、そういう身近なことから大きなテーマに辿り着くためのストーリーを考えていったという感じです。そこで繋がり合えるものは何かなと思うと、最小単位のものはきっと隣にいる人だと思うんですよ。もちろん考え方も価値観もそれぞれ違うし、色々なことでぶつかり合ったり、うまくいかないことなんてザラにあると思うけど、それが現実だし、この曲の中で歌っているように、お互いに認め合って分かり合って近づけることが“綺麗事”に映る時もあると思うんです。だけど、お互いに考えが違ったりしても隣にいる誰かと寄り添ったりすることはあるんじゃないかなと。そこから世界が仮にパズルだとしたら…という発想に行き着いて、世界がパズルで全てがひとつになるんだとしたら、始まりはそこからだろうなって思ったんですね。世界がひとつになるってことよりは、ひとつになれなくても寄り添い合えるって言うほうが自分にとってリアリティーがあったし、実感として得ていたので、そこから広げていきました」
──タイトルにある“ピース”は、“peace(平和)”と“piece(カケラ)”のダブル・ミーニングですけど、世界をパズルになぞらえて、そこに生きる全ての人々をカケラと例えた発想の入口って?
「それは“peace(平和)”から来ているんでしょうね。“peace(平和)”をテーマに書こうと思った時に、自分達も1つの“piece(カケラ)”なんだと思ったんですよ。あと発想の中には、2番のサビの歌詞にある“無邪気な君のピースサイン”がイメージとして最初からあったし。色々な意味での“piece(カケラ)”がそこに集まるといいなと思ったんですね。そこで“パズル”とか“70億”とかっていうワードが出てきて。そういう大きなところに向かう出発点はどこかな? と考えた時に、“遮断機の向こう側~”っていう身近な景色が浮かんで、そこに行くまでのストーリーを書いたんです」
──“綺麗事”というこの言葉が歌詞の中で印象深く聴き手に問いかけていますけど、そこも秦さんのリアリティーですね?
「はい。これはもう、聴く人はどう思いますか? ってことですからね。自分が言っていることは綺麗事かもしれないけど、でもそう思うんだからしょうがないじゃないっていうことだったり、そういう意味合いは言葉の中でニュアンスとして伝えたいなと思ったので。この歌は、絶対に僕らはひとつになれるんだってことじゃないから。むしろひとつになれないって否定している、そのリアリティーは結構こだわりましたね」
──もう一方の新曲は、映画『聖の青春』の主題歌となったポップで力強いナンバーの『終わりのない空』。映画は、29歳の若さで亡くなった実在の棋士・村山 聖さんの物語ですね。
「この映画主題歌に携わらせていただく前まで、僕は村山聖さんのことを詳しく知らなかったんですけど、完成直前の映画を見せていただいたり原作を読んで、映画のエンディングを飾る上でどんな歌が流れたらいいのかなということをずっとイメージしていたら、こういうビートの効いた曲調になったんです。村山さんの前へ前へ生きている姿とか、勝負のヒリヒリした緊張感とかが、こういうエッジの効いた8ビートの感じに繋がっていったんだと思いますね。エネルギッシュな曲になるといいなって」