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『岸辺の旅』で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した黒沢 清監督が、劇作家・前川知大率いる劇団イキウメの人気舞台『散歩する侵略者』を映画化。町で起こった一家惨殺事件を追うジャーナリストの桜井(長谷川博己)が出会う“謎の青年=侵略者”の天野を黒沢組初参加の高杉真宙が演じている。難役に挑んだ高杉に、今作の撮影秘話や役について語ってもらった。
Photo:竹中圭樹(D-CORD) Text:奥村百恵

──侵略者という役を最初にオファーされた時はどんな心境でしたか?



「最初は侵略者である天野をどんなふうに演じていいのか、全く分からなくて悩みました。というのも、見た目は普通の男の子(体を乗っ取っているため)なので、人間と侵略者の違いをどう表現したらいいのかがすごく難しかったんです。でも、台本を読んでいるうちにどんどん天野のことが好きになっていったので、悩みながらも撮影がどんどん楽しみになっていきました」

──天野くんのどんなところを好きになっていったのでしょうか?



「彼は地球にやってきた侵略者3人のうちの1人なんですけど、3人の中でもっとも人間に興味があるんじゃないかなと思えたんです。それに他の侵略者と比べると天野の発言は少しライトで、現代の若者のファッションをちゃんと取り入れていて面白いキャラクターなんです。なので、天野のことがどんどん好きになりました」

──確かに中身は侵略者に乗っ取られたとはいえ、天野くんはとても魅力的なキャラクターで好感が持てました。黒沢監督からは何かリクエストはありましたか?

「監督からは内面というよりも動きに関することで指示をいただくことが多かったです。例えば、“急に立ち止まってこっちを振り返ってずっと見ていてください”とおっしゃって、そういう動きをすることで侵略者らしい違和感のあるシーンになると。こういう演出はすごく面白いなと感じましたし、とても印象に残っています」

──演じていて難しいと感じたことは?

「侵略者と人間の違いを表現することもそうですし、今作では侵略者が人間の“概念”を次々と奪っていくんですけど、まず脚本を読んだ段階で“概念”って聞き慣れない言葉だなと思ってしまって…(笑)。特に天野が人間の概念を奪ったあとの表現はすごく悩みましたし難しかったです」

──“概念”を奪うというのはすごく興味深かったです。

「天野が長谷川博己さん演じる桜井に“家族のために頑張らなきゃいけないんだ”と言う場面があるんですけど、彼らも侵略者としての使命を持って地球に来ているんですよね。だから悪気もないですし、侵略することが当たり前というか。侵略者側に立って考えてみると、概念を奪うことは不思議なことでもなんでもないんです」

──中には概念を奪われたことで自由になる人間も劇中に出てきますしね。

「そうなんですよね。概念というのは人間が勝手に作ったもので、ルールのようなものなんだなと思いました。概念がなくなることで崩壊してしまう人もいますけど、逆に自由になれる人もいる。そう考えると概念を奪うことが100%悪いことではないような気がします」

──ちなみに高杉さんが奪われたくない概念はなんですか?

「“家族”という概念を奪われたら寂しいです。あと、自分と他人の違いがなくなるのも結構しんどいので、“自分”という概念も奪われたくないです。普段の生活に支障をきたすものはなるべく奪わないでほしいです(笑)」

──同感です(笑)。天野くんが概念を奪うことでどんどん人間らしくなっていくところも面白かったです。



「天野はおそらく地球に来てすぐに体を乗っ取った青年の両親の概念を奪っているので、最初から割と人間っぽいんじゃないかなと思います」

※続きは月刊Songs2017年9月号をご覧ください。

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