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ヴァイオリニストの宮本笑里が、自身のキャリア初となる全曲クラシックのヴァイオリン名曲集『classique』をリリースする。昨年迎えたデビュー10周年という節目を終え、改めて原点に立ち返ってクラシックと向き合ったという本作。コンサートホールで3日間に渡って行なわれたレコーディングや選曲についてなど、制作にまつわる貴重なお話をうかがった。
Photo:竹中圭樹(D-CORD) Text:山田邦子

──少し意外だったのですが、ニュー・アルバム『classique』は、笑里さんにとって初めての全曲クラシックの作品なんですね。

「そうなんです。ベースとしてはずっとクラシックを大切にしていましたが、ありがたいことに、これまでポップスなど色んなジャンルの音楽をやらせていただいてきました。アルバムでもクラシック以外の曲を収録することが多かったので、改めて“宮本笑里です”っていう名刺代わりになるものをちゃんと作りたいなと思って、今回初めて、クラシックの曲だけを収録したアルバムを作ることにしたんです。昨年がデビュー10周年だったので、11年目というこのタイミングがいいんじゃないかなと思いまして」

──録音は、三鷹市芸術文化センター 風のホールで行なったそうですね。

「はい。これまでは基本的にスタジオで収録することが多かったのですが、今回はホールをお借りして、3日間という限られた時間の中でレコーディングを行ないました。スタジオとはまた違った緊張感がありましたし、何度でも録り直せるような、甘えられるような状況ではなかったので、レコーディングに挑む精神的な持っていき方や技術面など、意気込みとしても普段とはちょっと違う部分がありましたね」

──お話を聞いているだけで、張り詰めた現場の空気感が伝わってくる気がします。

「コンサートの本番を生で録られているような感覚なので、下手したら自分の鼻息とか(笑)、ヒールのカツッという音とか、全部入ってしまいますからね。確かに、自分の中でも緊張感はすごくありました」

──クラシックのアルバムは、そもそもホールで録音されることが多いんですか?

「そうですね。スタジオでの録音もありますが、ヴァイオリンという楽器はホールで響くので、会場のほうがヴァイオリンの良さが発揮されますから、やはりホールでレコーディングされる方は多いです」

──なかなか見る機会がないのでお聞きしたいのですが、どういう状態で録音されるんですか?

「客席にはもちろん誰もいなくて、ステージに何本かマイクを立て、その前でヴァイオリンを弾きます。エンジニアさんによって立てるマイクの数は違うと思いますが、今回は客席側とステージ側に1本ずつ、あとは今回一緒に演奏をしたピアノのところにも置いてありましたね。スタジオだと別々のブースで分かれて弾きますが、今回はヴァイオリンとピアノを同時に録っていたので、ミスは少なくしなきゃって責任も感じながらでした(笑)」

──同じ演奏会場であっても、いわゆるお客さんがいらっしゃる状態でのライブとは、また気持ち的にも違うんでしょうね。

「コンサートだとお客様がいらっしゃるので、私はいつもその空気感からパワーをもらい、普段、発揮できないものが発揮できたりするんですね。だけどレコーディングだと(作品として)残すものなので、ちゃんとする部分はやっぱりきちんとしないといけないわけで。その上で、聴いてくださる方の心に届く演奏をしなければならないのですが、最初は、実際にステージの目の前にお客様がいないとなると、どういう気持ちで届ければいいんだろう? という違和感が少しだけありました。でも自分の中でお客様がそこで聴いてくださっているというイメージをしっかり持つことができたので、こういうふうに聴いてもらえたら嬉しいなということを思いながら3日間弾きました」

──でもきっと、あっという間の3日間だったんでしょうね。

「本当にそうなんです。私が昔、習っていた先生が常に、本番や演奏というものは巻き戻せない一発勝負なところがあるから、そのために練習をするんですよっておっしゃっていて。まさにそういうことだなっていうのを、すごく実感しました」

──実際の作業としてはいかがでしたか?

「初日を終えて“うまく弾けてたかな?”と思って聴いてみると、やっぱりまだ自分のものにできていないと感じる部分があったりしたんです。もっと(ヴァイオリンの)歌い方を変えたほうがいいんじゃないかということで、初日に録ったものを3日目に録り直したりもしました。体の響き方が全然違うんですよ。3日目となるとホール自体の響きにも慣れてきますし、感覚的にも違いがあって。ピアノと2人だけのホール・レコーディングというのは初めてだったので、“こういう感じだったらいけるんじゃないかな?”っていう勇気が出しやすくなったというのもあり、同じ曲でも、3日目は全然違った雰囲気で録ることができました」


※続きは月刊Songs2018年8月号をご覧ください。

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